連載インタビュー=サイトウ・マコト(現代作家)
「SCENE[0]」という絵画展を開催していますが、グラフィックから映像、プロダクト、建築に、より複雑な方へと進んだ後、なぜ絵画というシンプルなものに戻ろうとするのですか?仕事が複雑になると人間関係も複雑になります。そのなかで自分なりの表現を実現しようとすれば、言葉で相手を納得させる能力を身に付けなくてはなりません。しかし、言葉を巧みに操ることと、すばらしい表現をすることは、デザイナーの進む道として全く異なるものです。自分が望む最後の姿は自己表現を極めることですから、持っている力がそのまま表れる絵画こそ一番ふさわしい表現手段だと思いました。ビジュアル表現というものは、本来、何を視覚から感じ取るのかというとても単純なものです。つまり、ビジュアルとは言葉なしに全てを物語るものです。意味を解す間もなく襲ってきて神経を震わせ心を揺さぶる。そういう真に迫る表現を追求したいのです。
どのようなことを大切にして取り組んでいますか?自己表現を追求することはグラフィックデザイナーにとって根本的に必要なことですが、社会の中で自分はどう在りたいかを考えることも大切です。世の中のためにならないものを売る手助けするような仕事でも、お金になれば引き受けてしまうことがほとんどでしょう。悪いところをひた隠し立派なことだけを伝えるようなデザインは、これまで十分過ぎるほど作ってきました。これからは自分に正直に生きたいですし、絵画を始めたのもそのためです。
良い作品を作りながら良い業績を上げることに、自分の性格はうまく作用していますか?こういう率直な性格のままずっとやってきましたが、だいたいうまく作用していると思います。気に入らない仕事はやりませんし、気に入ればもちろんやります。気に入らなくても、納得のいく金額をもらえれば引き受けます。大金をクライアントに要求するのは根性と力がないとできません。それは、自分自身を商品として、本性を全てテーブルの上に載せた勝負ができるのかということだからです。もちろん、自分自身の価値は高く見積もって欲しい。そういう精神を持つ人間として生まれてきたのなら、それに従うしかありません。
新しい分野の仕事は、どのように切り開いていますか?やりたいことをやるために何が必要ですか?精神力です。そして、自分がやりたいことをやりたいと言うだけのことです。言った以上はやらなければならないという状況を作り出して自分を発奮させます。もし、言うのが怖いのならば、それは結果に対する責任を負う根性が足りないだけです。それから、自分を信じること。他人が成功している姿を見てその道をあきらめる人が多いですが、人にはそれぞれのやり方があるわけで、正しいやり方というものは存在しません。自分の性格に合った生き方を見つけ、選んだ道を絶対に引き下がらないことです。
「魂」とは何ですか?自分を突き動かすものです。それだけを意識して生きています。自分の魂は人が思うような立派なものではありません。慈悲もありますが、間違いなく欲深さを持っています。魂を意識するということは、自分がどういう生き物なのかを意識するということです。何をすべきで何がやりたいのかということを、自分自身に問いかけることが魂なのだと思います。
若いデザイナーに何かアドバイスはありますか?人間として生まれてきたのなら、人生の全責任は自分にあります。他人や世の中のせいにすることはできませんし、運のせいにすることもできません。運は能力であり、能力が備わっているかどうかは自分の責任です。うまくいったなら、そのことに感謝して次のチャンスを祈ってください。世の中のいい条件というのは人生の悪い条件です。悪い条件のほうがいい条件です。そこで鍛えられ、自分の魂を信じれば、そこから芽生え、それを自分の意思で育て作っていくこと。これが人間という生き物です。そう思いませんか?
サイトウ・マコト(現代作家)
1952年福岡県出身。78年にデビュー。国内外で注目され、日本、アメリカ、ヨーロッパ、南米などでデザイナーとして驚異的な受賞歴を持つ。グラフィック作品は、ニューヨーク近代美術館をはじめ、世界30以上の美術館にコレクションされており、サンフランシスコ近代美術館では80点ほどを所蔵。2008年8月、金沢21世紀美術館での展覧会を絵画作品初の発表の場とし、新たに画家としての第一歩を踏み出す。









